書評 宇宙は何でできているのか

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著者、村山 斉(むらやま ひとし)さんはイプムー(カブリ数物連携宇宙研究機構)という宇宙研究機構の機構長で、NHKの宇宙系特別番組「村山斉の宇宙をめぐる大冒険」で知りました。
とてもわかりやすい丁寧な解説と、優しい語り口が特徴で印象的だったため、本屋を物色していた際に手に取った本です。

村山さんの専門分野のひとつに素粒子物理学があり、本書はその素粒子視点から宇宙は何でできているかを紐解いていくものです。

宇宙を知ることは素粒子を知ること

宇宙を知るためにはミクロの世界を知るというのは、今まで読んだ本等の影響で感覚的になんとなく知っていました。
人間の前は猿で、猿の前は魚?、魚の前はプランクトン?みたいに辿っていって、どんどん小さくなるとなんか宇宙がわかりそう?くらいの感じです…

しかし改めて、物質を極限まで分解していくことで知る発見や法則についてここまで突っ込んで解説してもらうと、物質を作る最小単位である素粒子がわかれば、見ることができない部分も計算で表現できるっていうのがよく分かりとても面白いです。
本書では「ウロボロスの蛇」をモチーフに、極小を見つめることでいつのまにか極大の宇宙に、またその逆であることを説明しています。

例えば、太陽が燃えているのは4つの水素原子からヘリウムが作られる際に起きる、核融合反応によって欠損した質量をエネルギーにして燃えているそうです。
簡単に言うと、水素原子からヘリウムに変わる際、もともとあった水素原子とヘリウムの質量を比べると水素原子の方が重いのですね。
ヘリウムになることで質量が減るのですが、その差分の質量がエネルギーとなって燃えているのです。
その重量はなんと秒間50億キロだそうで、地球人目線でみるととてつもない大きさで驚きますね。ものすごい基礎代謝です…
これはもちろん実際に太陽に行って調べるのではなく、水素原子からヘリウムが作られた際に放出されたニュートリノという素粒子が日本の(!!)スーパーカミオカンデで証拠として発見され裏付けられたものです。

素人が素粒子を理解することの難しさ

実際に素粒子にまつわる法則を知ることは、素人には本当に難しくある程度辛抱が必要な世界でした。
一番の課題点としては、私が物理も数学もとくに勉強してこなかったため素養がなさすぎるというのもあるかもしれませんが、基本的に初めて聞く単語だらけで戸惑いました。
村山さんはおそらくそういった読者も対象にしていて、ひとつひとつ専門知識を必要としないようにまで落とし込んで説明してくれています。
ただ、本当に新しいインプットだらけで追いつかない〜というのが正直な感想です。
実際にこうやって感想をかくだけでもかなり難しいので、何もわからない人に素粒子を説明することのすごさがよくわかります。
反芻して理解を深めたいところです。

物質の法則・理論を知ることで改めて見える世界

まぁわからないなりにも、20%くらいの理解で読み進めるだけでも見える景色が違います。
わかりやすいのをいくつかあげるとするなら、

  • 光は波であると同時に光子という素粒子、つまり物質である
  • 全ての粒子は回転している*1
  • いまこの瞬間も、目に見えない粒子が1秒間に約1兆個体をすり抜けている
  • つじつま合わせ先行である物理学の側面

といったところでしょうか。

つじつま合わせ先行である物理学の側面

本書で度々、理論が成り立つ過程が紹介されるのですが、その考え方がめちゃくちゃ面白くて興味深いです。
今の理論で説明つかないことは、「まだ計算できないないけれど"ある力"が働いているに違いない、まだ見えてないけれど"ある物質"が存在するに違いがない」と、素人目にかなり大雑把で山勘なところから出発して、その後何十年か後に実証されちゃうというのが基本形のひとつみたいです。
「ごちゃごちゃ考えても仕方ないだってそうなんだもん」みたいな考え方ってとても本質をついていて私は好きです。

少し話が逸れますが、自分の仕事に当てはまる部分がややあって、例えば納期が限られている案件について、よくわからないけれどうまくいっている状態って普通に考えるとマネージメント側から見たらめちゃくちゃ怖いことですよね。
でも一方で、よくわからないけれどうまくいっている状態に問題が発生したら対応する余裕をつくるために、他のうまくいっていない部分にフォーカスするという考えも重要だと思っていて、ある程度割り切ってしまうと余裕が生まれて全てがスムーズに進んだりします。
逆に、よくわからないけれどうまくいっている状態にオーバーマネジメントすることでバランスが崩れて、散々な結果になってしまったというのもよく耳にするし実体験でもあります。
チームのバランスとリソースにもよりますが、ひとつのことを全て掌握することって理想ではありますが不可能なんだという割り切りも大事なんじゃないかなという考えですね。
であれば、問題が発生しないような仕組みと、問題が発生した時に即座に対応できるような仕組みに注力するのが本質的ではないでしょうか。

宇宙に興味をもって何冊か読んだ人におすすめ

なんとなく宇宙に興味を持ち始めて、面白い本何冊か読んだという方に最適かなと思いました。目立った宇宙論の表層に行きがちな視点を、軌道修正してくれるような位置づけの本だと思います。
繰り返し読んでひとつひとつ丁寧に理解していくことで、より突っ込んだ中級向け本への手助けになりそうです。

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

*1:2010/09/28 の刊行当時、回転していない粒子がみつかっていないという記述を元にしています